画像ガイドによる肺腫瘍に対する経皮的ラジオ波焼灼治療

−実施計画書−


肺がん治療ネット
連絡先 最上拓児医師


平成1525
東京慈恵会医科大学附属柏病院放射線部
最上拓児

T 研究の経緯・背景

近年、人口の高齢化と共に悪性腫瘍の発生頻度は増加の一途にある。それに伴い原発性および転移性肺癌の発生頻度も例外ではなく、癌死の原因の上位を占めるようになってきている。肺癌に対する根治的治療法として切除術が行われているが、症例の増加に伴い低肺機能や過去の開胸手術のため、切除困難な症例も多くみられるようになってきている。このような症例に対しては、化学療法や放射線治療が行われているが必ずしも十分な治療効果が得られているとは言いがたい。

ラジオ波焼灼治療(Radiofrequency AblationRFA)はラジオ波により発生する高熱により病変部を凝固壊死させる治療法であり、従来の化学療法や放射線治療とは全く異なる機序に基づく治療法として各種悪性腫瘍に対して応用されている。なかでも肝腫瘍に対するRFAはその臨床的有用性が多数報告されており、現在すでに日常診療において広く実施されている12

一方、肺腫瘍ではその周囲を熱伝導率の低い空気に囲まれており、ラジオ波により発生した熱が局所に留まり周囲肺実質への影響が限局的で焼灼治療に適していると考えられ、実験的に臨床応用の可能性が示唆された34。近年、実際に肺腫瘍に対し経皮的ラジオ波焼灼治療が行われ、その有用性も報告されてきている57

以上のような背景より、低侵襲的で有効性が期待される肺腫瘍に対する新たな治療法として、CTガイド下針生検の手技を応用した「画像ガイドによる肺腫瘍に対する経皮的ラジオ波焼灼治療」を計画した。

(注: 悪性腫瘍=がん
    肺癌=肺がん
    原発性肺癌=肺がん
    転移性肺がん=大腸がんや子宮がんや腎がんからの肺転移(てんい)
    肺腫瘍=ここでは肺がんや転移性肺がんをさす
    針生検=針で体の組織を一部採取する
    経皮的=皮膚を経由して行う)


U 目的

CTあるいはMRIを画像ガイドとし、肺腫瘍に対する経皮的ラジオ波焼灼治療を行った際の有効性と安全性について検討する。

(注: 肺腫瘍=肺がんや転移性肺がん
    経皮的=皮膚を経由して行う)


V 対象

1.選択基準

以下の基準を満たすものを対象とする。

1)      画像診断あるいは病理組織診断にて、大きさの測定可能な原発性あるいは転移性肺癌と診断され、合併症などにより手術が困難、あるいは手術を拒否した症例を対象とする。

2)      治療前に原発性あるいは転移性肺癌であることが患者本人に告知され、疾患について理解していること。

3)      転移性肺癌の場合は、原発巣がコントロールされていること。

4)      年齢が20歳以上、80歳以下であること。

5)      Performance statusPS)が02であること。

6)      すくなくとも90日以上の生存が期待されること。

7)      治療時の体位が保持可能であること。

8)      主要臓器の機能が保たれていること。

9)      患者本人に説明文書を用いた説明を行い、本人から文書による同意が得られていること。

2.除外基準

以下のような症例は対象から除外する。

1)      治療前の病理組織診断にて、小細胞癌と診断された患者。

2)      腫瘍が心大血管あるいは肺門に近接している患者。

3)      ペースメーカー装着患者。

4)      高度の血液凝固異常を来たしている患者。

5)      中枢神経への転移を来たしている患者。

6)      重篤な合併症を有している患者。

7)      妊婦および妊娠している可能性がある患者。

(注: 原発性肺癌=肺がん
    転移性肺がん=大腸がんや子宮がんや腎がんからの肺転移(てんい)
    小細胞癌=肺がんは小細胞肺がんと非小細胞肺がんに分類されている
    Performance statusPS)=体力


W 方法

1.術前評価

患者の術前評価として以下の検査を行い、選択基準を満たすかを評価する。

なお、肺生検以外のすべての検査は治療予定日の4週間以内のものとする。

1)      肺生検による病理組織診断

2)      胸部単純X線写真(2方向)

3)      心電図

4)      一般血液生化学検査(赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリット値、白血球数、血小板数、ビリルビン、GOTGPT、γ−GTPLDHALP、総タンパク、アルブミン、BUN、クレアチニン、NaKClCRP

5)      血液凝固機能検査(PTAPTT、出血時間)

6)      腫瘍マーカー

7)      動脈血液ガス

8)      呼吸機能検査

9)      胸部造影ダイナミックCT

10)  頭部単純CT

2.治療方法

治療はCTあるいはMRIによる画像モニタリング下に、焼灼用電極針を腫瘍内に直接穿刺して行う。ラジオ波発生装置はRF2000(ボストンサイエンティフィックジャパン社)、焼灼用電極針はLeVeen針(LV針)(ボストンサイエンティフィックジャパン社)を使用する(資料2)。入院期間は合併症の発生がなければ、治療日を含め3日間の予定である。

以下に手技の詳細を記載する。

1)      入室前に病棟で血管確保、前投薬(セルシン、硫酸アトロピン等)を投与する。

2)      CT画像を撮像し、体表の穿刺点と目的とする病変との位置関係を把握し、穿刺針が肋骨に妨げられない穿刺経路を決定する。

3)      穿刺経路に5mm以上の血管構造が存在しないこと、心大血管が確実に避けられることも確認する。

4)      穿刺部の局所麻酔と皮切後、焼灼用のLV針を腫瘍直前まで穿刺する。

5)      CT画像で腫瘍とLV針の最終的な位置関係を確認し、腫瘍内にLV針を刺入し電極針を展開する。

6)      20W程度の低出力から通電を開始し徐々に出力を上げ、焼灼により組織水分が枯渇しインピーダンスが急上昇するroll-offと呼ばれる状態まで焼灼を続ける。

7)      この後同様にroll-offが得られるまで再度通電し、2回の焼灼を行う。

8)      焼灼中は随時CT画像を撮像し、焼灼により腫瘍周囲の肺組織に生じるスリガラス状陰影を確認する。

9)      病変が電極針の展開径より大きい場合は、病変の頭側と尾側、右側と左側のように数回に分けて焼灼を行う。

10)  治療終了後は3時間ベッド上安静とし、止血剤(アドナ、トランサミン等)および抗生物質(3日間連日)を投与する。

3.治療効果の評価

1)      治療翌日:胸部単純CT、一般血液生化学検査にて、気胸や出血の有無を確認する。

2)      1週間後:胸部造影ダイナミックCT、一般血液生化学検査にて腫瘍の血流状態と血液生化学的変化を評価する。

3)      1ヵ月および3ヵ月後:胸部造影ダイナミックCTにて腫瘍の血流状態と縮小効果を評価する。また、術前に腫瘍マーカーが陽性であったものはこれについても評価する。


X 実施場所

東京慈恵会医科大学附属柏病院放射線部 CT室あるいはMRI


Y 安全性の確保について(予想される合併症と対策)

1.術中

1)      気胸:肺を直接穿刺するため2040%と比較的効率に発生する。無症状のものは経過観察とし、症状を呈するような気胸についてはトロッカー挿入による脱気にて対応する。

2)      皮下気腫:軽度の皮下気腫については経過観察とし、高度の皮下気腫では同様にチューブの挿入による脱気を行う。

3)      熱感および熱傷:焼灼による高度の熱感に対しては、通電を一時的に中止し、症状改善後に再度通電を開始する。熱傷は電極針の穿刺部およびパッドでの発生が報告されており穿刺部の皮切をやや広く取ること、パッドの位置を頻繁に移動することにより対応可能とされている。

4)      疼痛:腫瘍が胸膜に近接している場合、強い疼痛を訴えることが多く、鎮痛剤の投与にて対応する。

5)      肺出血:報告では肺出血の発生頻度は23%と低く、重篤な出血となる事は少なく、止血剤の投与により対応する。症例報告では抗凝固剤の中止からRFAまでの期間が比較的短く、大量の肺出血を来たしたとの報告があり(8)、抗凝固凝固剤を使用している症例では薬剤の中止から治療までの期間についても十分考慮する。

2.術後

1)      発熱:多くの症例で治療翌日より数日から1週間程度、37.5℃以下の発熱がみられるとされている。感染の予防目的で抗生剤は3日間連日投与し、発熱の症状が強い症例では下熱剤の投与にて対応する。

2)      胸水:胸膜に近接した病変では、治療後胸水が出現することがあり、少量であれば経過観察とする。多量で呼吸状態にも影響を与えるような場合はドレナージを行う。

3)      血痰:治療後は止血剤を投与することで予防する。

   その他報告されている合併症としては、肺炎、肺膿瘍、肺塞栓症、脳梗塞、気管支胸膜瘻などがある。しかし、いずれも発生頻度としては低く、これらの合併症が発生した場合にはそれぞれの疾患に応じた治療を行う。

3.研究を中止する基準

 本研究にて生命を脅かすような重篤な合併症が生じた場合、直ちに本研究を中止する。

(注: 気胸=肺の外に空気が漏れた状態
    皮下気腫=皮下に空気が存在する状態
    腫瘍=ここでは肺がんや転移性肺がんをさす
    肺腫瘍=肺がんや転移性肺がん
    経皮的=皮膚を経由して行う)


Z プライバシー保護に関する配慮

この研究に参加するかどうかは患者本人の自由意志であり、参加しなかったことにより不利益を受けることはない。また、一度同意し、同意書に署名した場合でも随時撤回することは可能である。

この研究結果を学会や論文等に発表する場合、患者の氏名やイニシャルなど個人が特定される情報は公表せず、年齢、性別のみの表記とする。

病理組織診断を得るために得られた検体は、当院病理部で処理し診断を行い、外部へ持ち出すことは行わない。


[ 参考文献

1.        Rossi S, Fornari F, Buscarini L. Percutaneous Ultrasound-guided Radiofrequency Electrocautery for the Treatment of Small Hepatocellular Carcinoma. J Intervent Radiol 1993; 8: 97-103.

2.        Solbiati L, Goldberg SN, et al. Percutaneous US-guided Radiofrequency Tissue  Ablation of Liver Metastases: Treatment and Follow-up in the 16 Patients. Radiology 1997; 202: 195-203.

3.        Goldberg SN, Gazelle GS, Compton CC, et al. Radiofrequency Tissue Ablation of  VX2 Tumor Nodules in the Rabbit Lung.  Acad Radiol 1996; 3: 929-935.

4.        谷川昇、澤田敏、小林正美ほか. 肺腫瘍に対する経皮的局所熱凝固療法の基礎的検討. IVR会誌1997; 12: 58-62.

5.        Dupuy DE, Zogoria RJ, Akerley W, et al. Percutaneous Radiofrequency Ablation of Malignancies in the Lung. AJR 2000; 174: 57-59

6.        Zagoria RJ, Chen MY, Kavanagh PV, et al. Radiofreequency Ablation of Lung Metastases from Renal cell Carcinoma. J urol 2001; 166:1827-1828

7.        豊島正美、松岡利幸、大熊智尚ほか 肺悪性腫瘍に対するラジオ波凝固療法. 日本医放会誌 2002; 62: 836-838.

8.        Vaughn C, Mychaskiw G, Sewell P. Massive Hemorrhage During Radiofrequency Ablation of a Pulmonary Neoplasm. Anesth Analg 2002; 94: 1149-1151. 


2005.8