第一線の医師が答えるがん(日刊工業新聞系 流通サービス新聞より)

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EBM(科学的根拠に基づく医療)

第60回 癌の最新治療 −肺癌−

− 負担の少ない胸腔鏡手術 −

回答者(東京慈恵会医科大学呼吸器外科講師 秋葉 直志氏) 2000.1.8

 肺癌(がん)に対して、現在、広まりつつある負担の少ない胸腔鏡(きょうくうきょう)手術について紹介します。肺癌の手術は胸を開けて、肺を取る大きな怖い手術です。手術の後は痛みが強く、呼吸が大変です。しかし、咳(せき)を我慢すると痰(たん)を出せず、肺炎になったり、胸に膿(うみ)がたまる、さまざまな合併症があります。医学の進歩で手術も比較的安全に行えますが、切られた胸の筋肉や取られた肺が再生するわけではありません。

 肺は呼吸をする重要な臓器です。肺癌と診断されれば4割近くの人が手術を受けねばなりません。右肺は3つ、左肺は2つに分離し、各々を葉(よう)と呼びます。肺癌の手術では1つの葉を切除し、かつリンパ節を切除するのが標準手術です。

 手術の負担を少なくする努力が行われています。方法は2つです。1つは切除肺の量を少なくすることであり、もう1つは胸の皮膚の切り方を小さくする方法です。前者は、癌が小さくてリンパ節転移のない肺癌か、体力がなくて通常の手術に耐えられない患者さんが対象です。しかし、肺癌は大きさが3センチメートル以下でもしばしばリンパ節転移が存在します(信頼度3)。また、肺の切除量を少なくすると、手術で肺切除をした場所の近くに癌が再発する頻度が高くなるので(信頼度3)、癌治療には不利になります。

 胸の皮膚の切り方を小さくする方法は、脇の下を切る方法や、胸の皮膚に小さな穴を複数開けて、胸腔鏡という内視鏡カメラとマジックハンドを挿入して肺を切除する手術です。手術後の痛みも少なく、入院期間が短い傾向があります(信頼度4)。対象はリンパ節の転移のない早い時期の肺癌や体力がなくて通常の手術に耐えられない患者さんです。欠点は、胸腔鏡では呼吸器外科医の高い技術が必要な上、リンパ節を徹底切除するという点でやや劣る可能性があることです。胸腔鏡の手術は急速な勢いで国内外に広がりを見せています。また器械と技術の進歩により行える手術の種類も増えつつあります。

(注)EBMでは科学的信頼度の高い順に5段階に分類します。
信頼度1おおがかりなくじ引き試験
信頼度2小規模なくじ引き試験
信頼度3他の医学研究
信頼度4権威ある人や団体の意見
信頼度5専門家の個人的意見